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【無人島254日目】寺尾紗穂 "青い夜のさよなら" [CD]

青い夜のさよなら

青い夜のさよなら

  • アーティスト: 寺尾紗穂
  • 出版社/メーカー: ミディ
  • 発売日: 2012/06/06
  • メディア: CD

254日目。先月、富士山が「世界文化遺産」に登録されました。パチパチパチ! 素晴らしいですな! ところで、せかいぶんかいさんってなんだ? ちょっと調べたところ、世界遺産には「文化遺産」「自然遺産」「複合遺産」の3種類があるのだそう。「自然遺産」は自然美が素晴らしく、地球の歴史上のある段階を顕著に残しているものが対象で、日本でいうと「屋久島」がそれにあたります。「文化遺産」は人類の歴史上で意味のある建築物や遺跡などが対象で、今回の「富士山」はこっちになります。( 「複合遺産」はその両方を兼ね備えている場合が対象です )。つまり富士山は「自然美がスゲーな!」っていうことで選ばれたのではなく、「万葉集とか浮世絵とか、世界的にも有名な多くの芸術作品の中心に富士山があったよね。だから富士山ってスゴイんだね!」っていう方向で選ばれたらしいです。確かに実際登ってみると、岩ゴツゴツ&あちこちにゴミで、お世辞にも自然美って感じじゃないですが、夕暮れ時にオフィスビルの窓から遠くぼんやり眺めていると、なんとも詩情を誘う、美しい山だなあと思うのです。


きみは行く
きみは行く四月
遠い国
遠すぎる国に

きみとの歳月
長い 長い歳月
泣き 憎み 怒り 別れ
そしてまた別れ
抱き合い 別れ
そしてまた抱き合い
混沌とした歳月の果てに
こんな結末が待っていた

きみは行く
きみは行く四月
わたしを忘れ
思い出を葬り
海と空とをあとにする
きみとの歳月
きみの歳月
これから先のきみの歳月に
わたしが関わることはない

きみは行く
きみは行く四月
煮ても焼いても飛ぶ飛行機で
かがやく富士に見送られ
きみが最後に見るのは富士山
きみの記憶に残るのは富士山

きみが行く
きみが行く四月
わたしは富士の頂きに立ち
そのまま富士と同化する
きみが最後に見るのはわたし
きみの記憶に残るのはわたし

今は二月
今はまだ二月
きみが消えたあとの歳月を
予想することがわたしにはできない
泣き 憎み 怒り 
抱き合ったきみが
いなくなる日がくるのだろうか

二つとないきみ
唯一無二のきみ
どこにも行くな 富士山のように
どこにも行くな 富士山となって
わたしの部屋から見えるきみであれ

きみは行く
きみは行く四月
これほど残酷な四月を知らない
これほど寒い四月を知らない
冷たく
熱い
手をしたきみを
人さらいの四月が連れて行く


詩人かつ作家の平田敏子の「富士山 〜晴れた日、成田を飛び立つ飛行機からは富士山が見える〜」という詩です。恋人なのか、夫なのか、子供なのか、とにかく彼女にとってのかけがえの人が、もうすぐ飛行機に乗って、遠い国へ行ってしまう。機上の窓から彼が最後に見るであろう富士山になって、せめて彼の記憶に残りたいと願う、切ない別離をテーマにした詩です。

228日目に紹介したシンガーソングライター・寺尾紗穂が、この詩に曲をつけて歌った楽曲が、彼女が昨年リリースした『青い夜のさよなら』というアルバムに収録されています。彼女のフラットで感情を込めすぎない歌い方が、この詩世界を見事に表現していて、聴くたびにボクは、とても悲しく、とても強い気持ちになれます。


風になびく富士のけぶりの空に消えて行方も知らぬわが思ひかな 西行法師


別離も、悲しみも、恋しさも、どうしようもなくそこにあり、動かしがたい。古来から日本人はその「どうしようもなさ」を、遠くにけぶる富士山になぞり、慰められ、顔を上げ、また歩き始めてきたのでしょう。ビルの隙間から富士山が見えた時の、あのなんとも言えないくすぐったさは、確かにボクたちの文化の遺産なのです。


タグ:2013年
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