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【無人島292日目】宇多田ヒカル "道" [CD]

Fantôme

Fantôme

  • アーティスト: 宇多田ヒカル
  • 出版社/メーカー: Universal Music =music=
  • 発売日: 2016/09/28
  • メディア: CD

292日目。先週、稀代の天才・宇多田ヒカルちゃんが6枚目のアルバム『Fantôme』をドロップされました。前作『Heart Station』から約8年。年齢で言えば25歳から33歳までの「女盛り」に、経験し、吸収し、咀嚼し、発酵させたインプットの集大成。お母様へのレクイエムあり、男女のすれ違いあり、同性への秘めた恋あり、主婦の危険なエスケイプありの、枠に捉われないバラエティに富んだ風景を、印象派を思わせる斬新なアングルで描いた11曲。レコーディングには、アデルやサム・スミス、エイミー・ワインハウスらを手がけたエンジニアたちを起用しているのだとか。良い意味でクセのあるリリックと、唯一無二の歌声を持つという点では、確かにアデル、サム、エイミー&ヒカルちゃんのコモンセンスは近いのかもしれません。


個人的には、お母様に宛てたのであろう1曲目の『道』が大好きです。「歌手」という同じ職業を選んだ母娘だからこそ、分かり合える道。「淋しい道だけど、(あなたも歩いた道だから)孤独ではない」と繰り返すリフレインは、高みに吹く一陣の風を望むような、清々しさをもたらしてくれます。「そんな気分」という最後のフレーズは、「もう大丈夫」というヒカルちゃんなりのメッセージと同義なのでしょう。その「再生」の決意に、リスナーの胸は熱くなるのです。

親から受けた影響や感謝を題材にした楽曲は、古今東西、星の数ほどございます。有名なところで言えば、ビートルズの『Julia』や、グレープの『無縁坂』、このブログで言うなら、5日目の松任谷由実の『Forgiveness』や、220日目の長渕剛の『Mother』も、そのジャンルに入ります。今日はその数多な楽曲の中から、ボクがグッとくるペアレントソングをご紹介します。




イギリスのシンガーソングライター、Laura Mvula(ローラ・マヴーラ)の2013年のアルバム『Sing To The Moon』に収録された『Father, Father』は、疎遠になってしまった実の父親に対する思慕をテーマにした楽曲です。ゴスペルのような荘厳さで「私を離さないで!お父さんを愛したいの!」と繰り返すその渇望は、親を求める幼子の泣き声のようで、胸を掴まれます。




33日目にも89日目にも153日目にもご紹介しているタテタカコの、2010年のアルバム『Harkitek or ta ayoro』に収録された『帰路(かえりみち)』という楽曲です。テーマがご両親かどうかは不明ですが、「幸せは比べたら見えないよ」というフレーズは、ヒカルちゃんの『道』の歌詞にある「目に見えるものだけを信じてはいけないよ」の一節にも似ていて、親から授かった大切な教えを、そっと歌に紛れ込ませているような気がします。「大人になった僕に手を振る」誰かに見守られ、いずれにせよ、この歌の主人公も一人で「道」を歩いていて、けれど「孤独」ではないのです。




すしくわせろ
にくくわせろ
ただいまおかあさん

あたらしいぱんつだせ
あたらしいくつしただせ
ただいまおかあさん

なつなのにながそでだ
ふゆなのにはんそでだ

ひげをそれとおかあさん
かみをきれとおかあさん
ただいまおかあさん

いいかげんおとなになれとおかあさん
ひさしぶりにすもうをとろうとおかあさん
ただいまおかあさん

はるなのにしょんぼりだ
あきなのににこにこだ

警察署からの帰り道のこと覚えてる?
お父さんには内緒にしようって言ったの覚えてる?
二人だけの秘密にしようって言ったの覚えてる?
カステラ買って食べたの覚えてる?
銀歯が取れたの覚えてる?


このブログでは何度も紹介している、ボクの敬愛する竹原ピストルの2010年のアルバム『BOY』に収録された『帰郷』。「帰郷」というタイトルの持つ成人な印象と、この甘えたな歌詞のギャップにヤられます。以前、倉本聰氏のシナリオ(たぶん『ライスカレー』)で、「マザコンじゃない男の人なんて信じられない」というような台詞がありましたが、ボクも同意です。母親から受けた影響やもらった人格が、「コンプレックス」になっていない男(もちろん女性も)なんて、いないのです。


でも“お母さん”って最もポップな題材じゃないですか。多分ほとんどの人にとっても、母親か、もしくはそれに当たる存在がいるわけで、そこから自分の核なる部分や、自分だけの世界を形成していくわけでしょ? それってめちゃくちゃポップなことだと思うんですよ。
『Real Sound』宇多田ヒカルインタビューより抜粋


「ポップ」な存在を失い、自らが「ポップ」になっていく。波のように繰り返されるそのリフレインに身を任せることが、「生かされている」という意味そのものなのかも知れません。そんな気分。


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