【無人島294日目】こうの史代 "この世界の片隅に" [BOOK]
294日目。20年以上前に亡くなった母方の伯母は終戦の日、玉音放送を聞いて他の家族が安堵の溜息を落とすなか、「なんで負けなのよ!もっと戦えるわ!」と悔し涙を流したのだそう。後年、母がそのことで伯母をからかうと、「アレは嘘よ。嬉し泣きだったのよ」などと嘯いておりましたが、まだ子供だった甥のボクから見ても一本気かつ情熱的だった彼女のこと、きっとモンペ姿のおさげ髪を激しく揺らしながら、おいおいと泣き叫んだ姿が容易に想像できます。日本が勝つと信じて、正に「耐え難きを耐え忍び難きを忍んで」きただろう伯母(を含んだ多くの日本人)にとって、負けを認めることは、それまでの苦労を水泡に帰することと同意だったはず。「終わって良かった」と安堵するよりも先に、「ふざけんな!勝手に終わらせてんじゃねえよ!」と憤るほうが、感情の流れとして納得できるような気がします。